第三章

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臥せっている落窪姫を励まし、御髪を綺麗に梳いて、お化粧を施します。 それからお香をたいて、衣装にも香りを移しました。 お部屋の中に香る薫物に、落窪姫の表情も、少しだけ和らいでいるようです。 そこで阿漕は、自分が二、三度着ただけの緋袴を、落窪姫に差し出しました。 「私が着たものを差し上げるなんて、本当に申し訳ないのですけれど……。 この袴は、まだ数度しか着けていない、新品同様のものです。 どうか姫様、これにお着替えくださいまし」 落窪姫は、阿漕に気を使わせるのが恥ずかしい反面、その気遣いが素直にうれしくて、その鮮やかな緋色の袴に着替えました。 単衣は昨日、右近の少将が姫に残してくれた衣がございます。 こうして落窪姫の準備も整ったところに、阿漕の叔母からお文と共に、紫苑色の夜具と立派な几帳が届きました。 『怒るなんて、とんでもない。 貴方が頼ってくれないのを、寂しく思っていた位ですから、これからも御用のある時はどんどん言って下さいね。 そんなに良い物ではないけど、余っているお品なので、几帳や夜具はあなたに差し上げます。 これからも、気兼ねなく頼ってきてね』
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