第一章

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「それは、そうでございますけど……」 夫のことを持ち出され、阿漕は頬を赤らめます。 と、いうのも。 阿漕は帯刀(タチハキ)の惟成という男と、最近夫婦になったのですが、この惟成は、三の君の夫・蔵人の少将の家来でありました。 見目もよく気の利く阿漕に惟成が一目ぼれし。 阿漕もまた、なかなか美丈夫で女房たちにも人気のある惟成に言い寄られ、悪い気はしませんでした。 そこで、決して浮気をしないことを条件に、めでたく妻となったのです。 阿漕が三の君に仕えなければ、そんなご縁にはあえなかったのだから……と、落窪姫は心底喜んでいる様子です。 そんな姫を見ると、阿漕はなおさら姫を幸せにして差し上げたく、奥歯をかみしめる思いでお部屋を後にしたのでございます。
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