第三章

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落窪姫のしっとりとした髪に指を差し入れ、首をそっと引き寄せると、姫はほんのりと頬を染めて少将を見つめました。 「今日は泣いていらっしゃらないのですね」 少将が意地悪く申します。 落窪姫はどう答えてよいのか分からずに、消えるような声でつぶやきます。 「意地悪なことをおっしゃいますのね」 「ずっとすげなくされていたのですから、そのお返しですよ」 少将はそう答えると、姫の唇に優しく口づけを致しました。 落窪姫は驚きましたが、不思議と嫌な気持ちはいたしません。それどころか、少将の腕の中は温かく、熱のこもった眼差しも、心地よく感じます。 今まで手際よく女人の衣装を解いていた少将も、落窪姫のうるんだ瞳に心を射られて、胸が高鳴り指先が震えてしまうのです。 「貴方は本当に不思議な人だ。 ついこの間まで、結婚なんて考えていなかった私を、こんなに夢中にさせるんだから」 少将のその言葉に、落窪姫は言葉で答えることはございませんでしたが、代わりに自分の頬を少将の胸に寄せました。 この夜、二人は契を交わし、本当の夫婦になったのでございます。
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