第三章

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翌朝。 空は白み始めているのですが、右近の少将は従者に、雨が止むのを待ってから帰ることを伝えます。 この時代の結婚は、殿方が女性の所に三日連続で通って正式なものとなるので、それまでは空が明るくなる前に、帰らねばなりません。 ですが少将は落窪姫と離れがたく、中納言邸は石山詣で人が少ないので、まだ姫の隣に横になったおりました。 それを察した阿漕は、なんとかして少将に人並みのもてなしを差し上げたいと、朝の準備を始めました。 邸内の家人は石山詣にお伴をしているので、ほとんど残っておりません。 それでも台所に行くと、下働きの女が一人だけ残っておりました。 「すみません、お願いがあるのですけど。 実は夫の友達が昨夜ここに泊まったのだけど、雨が降り出したせいで帰れなくなってしまったのよ。 せめてお粥だけでもお出ししたいんだけど、分けてもらえないかしら」 阿漕がそう頼むと、下働きの女は快く粥を分けてくれました。 阿漕は、誰にでも優しく礼儀正しく接する、働き者の女房だったので、皆に好かれているのです。
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