第三章

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「おやおや。お客様のお相手を一人でするなんて、大変でしたねぇ。 お邸の方がお参りから戻られた時のための、お酒や御つまみがたくさんあるので、少しなら分けてあげられますよ? ほら、どうぞこれもお持ちくださいな」 そう言って、お酒や海藻の切れ端も分けてくれました。 それを、露と言う名の女の童に、落窪姫のお部屋に運ぶよう言いつけて、顔を洗うための御手水(ミチョウズ)の準備を致します。 (私は手水用のたらいを持っていないから……。 仕方がないわ。三の君様の持ち物を、こっそりお借りしよう) そう思って三の君の部屋にたらいを取りに行きました。 そうした用意を全て済ませて、今度は自分の身づくろいを致します。 いつもは動きやすい軽装をしている阿漕ですが、今日は改めて少将の前に姿を見せるのです。 大人っぽい正式な女房装束に着替えて、綺麗にお化粧も施しました。 綺麗に梳かれた髪は、身の丈より三尺ほども長く。 「はあぁ。綺麗だなぁ。惚れ直すよ」 見慣れた惟成も、阿漕の姿に思わずため息をつきました。
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