第三章

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落窪姫のお部屋では、少将が姫の顔を愛おしそうに眺めております。 その名残惜しそうな眼差しを、姫もうれしく思います。 ですが自分には、婿君に人並みのもてなしを与えてくれる親がいないので、気持ちがそわそわするのです。 (少将様は、御手水も朝の膳も出て来なければ、きっとがっかりされてしまうわ) 落窪姫がそう思う一方で、少将も姫の境遇は分かっているので、 (いつまでもこうして姫の顔を見ていたいけど、この人に肩身の狭い思いはさせたくないし……) と、もうそろそろ退散しなければと、思っております。 そこへ、独り言のような阿漕の声が聞こえて参りました。 「この御格子は、上げない方がいいのかしら」 格子をあげると、お部屋の中に日の光がさして、明るくなるのです。 阿漕は改めて明るいお部屋の中で姫を少将に見せたくて、わざと聞こえるようにそう申したのでした。 「このお部屋は暗すぎるよ。格子は上げておくれ」
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