第三章

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其の四 右近の少将を見送った後、阿漕はすぐに筆を取りました。 今夜は、結婚三日目の夜でございます。 この日、『三日夜の餅』という儀式を経て、二人は晴れて正式な夫婦となるのです。 綺麗に盛り付けられた餅を、二人でともに食べた後、本当であれば『露顕(トコロアラワシ)』という、婿君を親族に披露する宴会が行われるのです。 ですが、落窪姫の結婚を祝うものなど、阿漕と惟成以外にはおりません。 それ故に、阿漕はせめて『三日夜の餅』の儀式だけはきちんとやって差し上げたいと、もう一度叔母に頼ること致しました。 『叔母様、昨日はお願いしたお品を、早速送って下さってありがとうございます。 度々お願い事をするのは、大変心苦しいのですけれど……。 実は今晩、御餅が少し必要になりまして、どんな事情かと不思議に思われるかもしれませんが、都合をつけて頂けないでしょうか。 出来れば、御餅を飾るのに丁度よい、綺麗なお菓子や、たらいや湯差しなどもお借りしたいのですけれど。 お願い事ばかりで申し訳ないのですが、叔母様のご厚意に甘えさせてくださいませ』
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