第三章

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時を同じくして、左大将のお邸でも、右近の少将と惟成が、恨めしそうな顔で空を見上げております。 簀子縁まで打ち付ける横殴りの雨は、とても止みそうにありません。 「残念だが、この雨では姫の所に行けそうにないなぁ……」 右近の少将は、落窪姫に一刻も早く会いたいのですが、あまりの雨で出歩くことが出来そうにないのです。 この時代、都と言えども夜道は大変暗く、月と星のわずかな明かりに、たくさんの松明で周りを照らさなければ、とても出歩くことは出来ませんでした。 このような大雨の夜は、車も出せず、火も灯せないので、外を歩くのはとても危険であるのです。 「そうですねぇ。通い始めたばかりで、あちら様も不安になられるかもしれませんが……。 この雨では車などとても出すことはできませんよ。 あきらめるしかなさそうですね」 阿漕はきっと怒るだろうなぁと思いながら、惟成は少将に答えました。 うなずいてため息をつく少将は、浮かない顔をしております。 せっかく打ち解けてくれた落窪姫に、自分の心を疑われたら、と。不安で仕方無いのです。
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