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「若様、とりあえず、お心を込めたお文だけでも、送られたらどうでしょう」
「そうだな。
何も言わずに行かなければ、あちらもさぞ心配することだろうし」
早速右近の少将は筆を取り、姫の顔を思い浮かべながら、心を込めて文を書きました。
『一刻早く貴方にお会いしたいのに、あまりの雨で伺うことが出来そうにありません。
決して貴方への愛が失われたわけではありませんので、誤解なさらないでくださいね』
惟成も同じように、阿漕に文を書きました。
『若様は、今夜伺えないのを、本当に嘆いておいでだよ。
俺だけでも後から行くから、機嫌を損ねないでおくれ』
その文を受け取った阿漕は、確かにこの大雨ではと、自分を納得させようといたします。
ですが、今日は大切な結婚三日目の夜です。
しかも、あれだけ一人で立ち回って完璧に準備をこなした手前、おいそれと受け入れることは出来ません。
阿漕は悔しい気持ちをかみしめながら、惟成に返事を書きました。
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