第三章

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『どうして来られないのよ。 雨がどんなに降っても会いに行くって、昔のお歌にもあるじゃない。 こういう困難のある日にこそ、駆けつけてくれるのが、愛情の示し方ってもんでしょう? 騙し討ちのように姫様に夜這いしたくせに、少将様は情け知らずなお方だわ。 それに惟成さん。あなたもどんなつもりで一人だけ来るなんて言うの? 姫様につらい思いをさせて、のこのこ顔を出すなんて、信じられないわ。 こちらがこんな思いでお待ちしてるのに、少将様は来ないってわけよね。ふんっ!』 せっかくきれいな衣装に身を包み、お化粧も施しているのに、今の阿漕は鬼のような顔をしております。 一方落窪姫も、少将が来られないことを大変悲しく思い。 『生きるかいも無く悲しい身の上の私ですが、貴方様のおいでが無い今宵、袖を涙で濡らしております』 という、いじらしい意味の歌を一首だけ、お返事いたしました。 その文を見た右近の少将は、姫に会いたい気持ちをますます募らせます。 ですが、雨の勢いが収まることはなく、少将は姫からの文を胸に抱いて、深くため息をつきました。
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