第三章

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それならば、どんなに怒られても詰られても、自分が頭を付いて詫びるくらい、何てことないと惟成は思ったのでございます。 その決心を察したのか、右近の少将も膝を打って立ち上がりました。 「よしっ! それなら私も一緒に行こう!」 「本当でございますか?」 惟成の顔がぱっと明るくなります。 こんな大雨の日に、少将のような貴人が出歩くなど、めったに無い事なのです。もし本当に少将を連れて行けば、阿漕は惟成のことを見直すことでしょう。 「私は直衣(ノウシ・貴族の平常服)を脱いで、濡れてもいいような気軽な衣装に着替えるから、お前は大傘を探してこい」 すっかりその気の少将は、足早に隣のお部屋に着替えに行きます。 その間に惟成は、お邸を走り回って、一番大きな傘を手に入れました。 こちらのお邸でそんな会話があったとは知らず、阿漕は空に向かって恨み言をつぶやきます。 「まったく。こんなに馬鹿みたいに降らなくてもいいものを。 憎たらしい雨ですわっ」 せっかくの三日夜の餅が無駄になってしまうと、阿漕は残念で仕方がないのです。
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