第三章

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怪しい身なりをしている右近の少将と惟成は、身を隠したいのですが、とても狭い小路にいたので、出来そうにありません。 仕方がないので、傘で横にして顔を隠しながら、やり過ごそうと致しました。 ところが小役人の雑色たちが、いっせいに足を止めます。 「おい、そこの二人。 こんな夜中に、ましてこんな大雨の中、供もつけずに出歩くなんて、怪しいじゃないか」 まさか身分の高い者が、このような夜にこのような格好で出歩いているとは思わず、雑色たちは二人を取り囲んで、図に乗って松明を振り回します。 「怪しいものではございません。主人に言いつけられ、急ぎの使いに参るものです」 惟成が機転を利かして答えますが、雑色たちは聞く耳を持ちません。 「おい、見ろよ。こいつらの足は真っ白だぞ? どうやら盗賊ってわけではなさそうだ」 「いやいや、落ちぶれた貴族が、盗みに走っているのかもしれないぞ?」 「こいつ、生意気に指貫(サシヌキ・貴族男性の袴)を来てるぜ? どうやら恋しい女の下に通う、身分低い者らしいや」
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