第三章

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二人は気を取り直して、夜道を急ぎました。 やっとの思いで中納言邸に到着し、まずは阿漕の部屋に入ります。 阿漕は落窪姫のお部屋に控えているのか、右近の少将は惟成に用意させた水で、足の汚れを落とし早速姫の部屋へ向かいました。 落窪姫は、今夜少将の訪れが無い事や、通う男のできたことを北の方に見咎められたらという不安で、臥したまま目に涙を含ませております。 阿漕の方も、一日中飛び回っていたせいか気が抜けて、姫の側に寄り添うように臥しておりました。 そこへ、はたはたと格子を叩く音が致します。 「格子を上げておくれ」 聞こえてきた右近の少将の声に、阿漕は飛び起きて格子を引き上げました。 そこには、川を泳いできたのではと思う程、ずぶ濡れの右近の少将が立っております。 (まあ、もしかして。 この大雨の中を、歩いていらしたのかしら) 阿漕は大変感動して少将を誉めそやしたい気分でしたが、気持ちを抑えて素知らぬ振りで尋ねました。 「少将様、どうしてそのようにずぶ濡れでいらっしゃるのですか」 阿漕の言葉に、少将は眉を下げて苦笑致します。
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