860人が本棚に入れています
本棚に追加
二人は気を取り直して、夜道を急ぎました。
やっとの思いで中納言邸に到着し、まずは阿漕の部屋に入ります。
阿漕は落窪姫のお部屋に控えているのか、右近の少将は惟成に用意させた水で、足の汚れを落とし早速姫の部屋へ向かいました。
落窪姫は、今夜少将の訪れが無い事や、通う男のできたことを北の方に見咎められたらという不安で、臥したまま目に涙を含ませております。
阿漕の方も、一日中飛び回っていたせいか気が抜けて、姫の側に寄り添うように臥しておりました。
そこへ、はたはたと格子を叩く音が致します。
「格子を上げておくれ」
聞こえてきた右近の少将の声に、阿漕は飛び起きて格子を引き上げました。
そこには、川を泳いできたのではと思う程、ずぶ濡れの右近の少将が立っております。
(まあ、もしかして。
この大雨の中を、歩いていらしたのかしら)
阿漕は大変感動して少将を誉めそやしたい気分でしたが、気持ちを抑えて素知らぬ振りで尋ねました。
「少将様、どうしてそのようにずぶ濡れでいらっしゃるのですか」
阿漕の言葉に、少将は眉を下げて苦笑致します。
最初のコメントを投稿しよう!