第三章

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右近の少将は、落窪姫の顎にそっと指を当て、姫の顔を自分の方に向かせます。 「もう涙は見せないでくださいね? だって姫は、私がどんなに貴方を愛しているか、ご存じなんだから」 潤んだ瞳の奥に答えを見つけるように、少将は姫を鋭く、けれど、優しさを持って見つめました。 すると姫の眦が柔らかく下がり、小さな手が少将の頬にぎこちなく添えられたのです。 少将がその手に自分の手を重ねて、ゆっくりと口づけると、今夜の姫は、ためらいがちに少将に応えようとしてくれます。 昨夜、初めて契りを交わした時は、少将にしがみつくようにその細い体を震わせていた落窪姫ですが。 今夜は、少将の唇や指の動きに、艶めかしく体を揺らしています。 耳元で睦言を囁くと、微笑みと、つぶやく様な可愛い声で答えをくれる落窪姫に、少将は鳥肌が立つほど愛おしさがこみ上げます。 (愛し合うということは、こんなにも狂おしい事なのだ……) 幾人かの女人の体を通り過ぎてきた少将ですが、初めて感じる身を震わすような波に、思わず飲み込まれてしまいました。 そして、落窪姫の甘やかな吐息を耳に感じながら、浅い眠りについたのでございます。
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