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「俺さあ、結婚しようと思ってたんだ」
2人になってしまった家で、兄にそう告げられた。
そういえば、泣くでも無く、どういう顔をしたらいいのか解らない。
そんな兄と俺のそばに、ずっと女の人がいた。
よくよく思い出せば、もう1人誰かいた。
だけどそっちは今、どうでもいい。
あんまり会った事のないはずのその人に、だけど馴染んだ雰囲気を感じたのは、
兄がずっと大切にしていた恋人が、その人だったからだろうか。
多分きっと、彼女は両親とも親しくしていたはずだ。
そこには新しい家族が出来かけていた。
……俺が気付かない間に。
それもそのはず。
彼女が家に来ていた時、俺は家に居ても普段以上に閉じこもっていたから。
だって、見たくなかった。
兄さんが誰かと仲良くする姿なんて。
けど今なら、もっとちゃんと、あの輪に加わってみればよかった。
そんな事すら思う。
とりあえず、祝っておこうか。
嘘でも口にするぐらい、今の俺にも出来る事。
「おめでとう」
少しでも、沈んだ兄の気持ちをどうにか出来るなら。
そう思って笑ったはずの俺を顔を見て、兄は眉をひそめた。
声はちゃんと張った。
俺が思うに上出来だった。
……だけど俺の顔の筋肉は、ちっとも動いてくれてなかったそうだ。
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