一竜一猪

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「そりゃ勃たなくなった時ですよ。」 ナギはその言葉に苦笑し、前を見たまま言った。 「オレはさ、決めてんだ。 自分が男として終わる時。 仕事でも趣味でも何でもいい。 もしオレが終わる時はさ、熱くなるものが何一つ無くなった時だよ……。 いつか結婚してさ親になっても、家族の為に働き蟻になってもさ、熱くなるものがあれば男でいられる。 そう考えてるよ。」 「…………………。 それが今は麻雀って事ですか?」 「取り敢えずはね。オレだって今みたいに麻雀ばっかりやっていけないってわかってるけどさ……。」 ヒロヒトは少し黙り込み考えているようだ。自分が熱くなるものがあるかを考えているのかもしれない。 「何で麻雀やるんすか……?」 ヒロヒトの中で絞りだした言葉だった。 「まぁ面白いのが一番だけど……。 やらない奴はさ、たかが麻雀だって笑うだろうけど、オレには金の勝ち負け以外の価値がある。 今麻雀をしていて思うのは……。 自分が持っている人間なのか、そうじゃないのかの追求……。 麻雀を勝ち続けるには腕や知識だけじゃ足りない。 麻雀の神様に気に入ってもらえる人間だけが、勝者で居続ける。 麻雀を打ち続ける事が出来るんだ。 自分がそれに値するのか?それを知りたいんだ……。」 このナギの言葉を最後に2人は別れ道に着いた。 ヒロヒトは少し顔を曇らせ、帰って行った。 『面白い事言うな……。まぁ学生が言う事じゃないけどな。』 「オッチャン聞いてたの?そうだよ学生だけどさ、それだけ真剣に打ってるって事だよ。オレは雀士だからな。」 『言ってろ!お前なんてまだまだだ。』 ナギはオッチャンの言葉が耳に入らないまま、アパートへと帰って行った…………。
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