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「や、やめ、・・ハハ・・もっ苦し・・」
笑いすぎて苦しくて、彼の目に涙が溜まる。そして、
「あだっ、だだだだ・・・・」
普段笑いなれない、むしろこんな風に笑ったことすら何年ぶりかの透は、腹筋と表情筋が攣ってしまい、悶えた。
「本当に大丈夫?・・えーと、名前、・・名前聞いてないし、言ってないね!」
今はそんなことどうでもいい。痛い。苦しい。
透は冗談でなく泣いた。
「私はね、鈴森ちこ。で、この人はクロタケさん」
「ホウキだ。ガキんちょ」
「ガキんちょ、じゃねぇ、よ。透だ。東山(ひがしやま)、と、おる、だ」
それどころではないのに、巫女装束の少女こと、ちこが自己紹介してきて、作務衣の女こと、クロタケホウキがまたガキ扱いしてくるから、彼は必死で自分の名を告げる。
「ようこそ、鈴森神社へ。これからよろしくね、東山透君」
「・・・・・・」
ちこがにっこりとした笑顔で言ってきて、彼は痛みがだいぶ治まってはいたけれど疲れて返事をせずにいると、
「無視すんじゃ・・」
「すみませんでした。よろしくお願いします」
ホウキがまた黒い竹箒で突いてこようとしたので、慌てて応えて、慣れてないのになぜか笑顔を見せようとして、なぜかちことホウキがぎょっとした表情になり、なぜか透の頬が濡れた。
なぜか透は泣いていた。
別に痛くも悲しくもないのに、ぽろぽろと涙が流れて止まらない。止め方も分からない。
「クロタケさん!!」
「お前何したんだよ・・」
「オ、オレのせいなのか?!」
ちこが透をいじめすぎたことで責めたて、透は黒い竹箒で何かされたのだと思い声をかけたために、ホウキは気まずげな表情でひるんだ。
いたずらっ子がやりすぎて親を本気で怒らせてしまった時のような、困った表情。
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