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そして、荒れていた頃に自分に課せられた次の仕事に目を向ける。
――ねぇ、蝙蝠扇。目の前に熱がる女がいるの。冷やしてあげなさいよ――
鈴が幾つもくくりつけられた紐でぐるぐる巻きに抑え込んでいたアフグを、鈴音は禍々しい空気を放つホウキの前に突き出した。
存在理由を欲していたアフグに、鈴音とホウキは存在理由を与えてくれた。
「ちこ、やっぱお前は鈴音の子だよ」
ヒオウギに乱され、黒竹箒で散らかされた心が戻ってくる。
「もう大丈夫だ。ホウキを何とかする」
アフグは耳と蝙蝠扇に鈴をつけ直す。
ちりん、と可愛らしげに鈴がなる。
そんな蝙蝠扇の姿に、昔を懐かしむような柔らかな微笑みを思わず浮かべてから、アフグは立ち上がった。
ホウキの取り憑いた佳奈美は、長椅子に座って楽しそうに透を眺めている。
ゆっくりと動き続けていた透は、佳奈美が座っているものとは別の長椅子に向かっていて、その長椅子の上には嫌な銀色の光が見える。
包丁だ。
しかし、その二人への道を阻むようにヒオウギが目の前に立っていた。
今にも泣きそうな苦しげな表情で。
ちりりーん
一瞬だけ、ゆっくりでも動いていた透が止まった。
しかし、また動き始める。
「ちこ、聞こえたか?」
「今の、鈴の音?」
お守り売り場の裏にある、家の方から聞こえた鈴の音。
鈴音が呼んでいる。
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