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「ホウキの鈴の音だ。まずそれを取りに行く」
「わかった。それは私が取りに行く。だから、」
ちこは鈴の音を追っていこうとしたアフグを止めて、
「だから、カワホリさんはヒオウギさんを助けてあげて」
ちこはそのまま走って、お守り売り場の裏へと消える。
アフグは驚きながらヒオウギを見た。
ヒオウギをかまっている場合ではない。
それでも、今にも泣きそうな苦しげな表情でこちらを睨みつけているヒオウギの姿が、さっきの自分と重なって、
「檜扇」
アフグは優しく微笑みかけた。
「何で、何で笑ってられるんだよ!蝙蝠扇は捨てられたんだよ。まだ使えたのに、僕がいたから!」
蝙蝠扇は姫を想う気持ちだけで作られた。
だけど、檜扇は職人の欲が少し混ざっている。
年中、自分の代わりに傍に置いてもらいたい。
姫様に見てもらいたい。
姫様に愛されたい。
「何で、そんなに余裕でいられるんだよ!何で蝙蝠扇ばっかり・・」
ヒオウギは髪を振り乱して喚き散らす。
「姫様は自分から蝙蝠扇を捨てたのに、いつだって夏になれば蝙蝠扇を思い出して、僕がいるのに僕なんか見ずに『勿体ない事をした』って言って、僕がいるのに・・」
アフグは喚き散らすヒオウギを抑えた。
「それで、僕は売られて・・いつか僕も蝙蝠扇のように捨てられて・・」
そして、ヒオウギを抱きしめて、耳元で囁く。
「そんなに暴れるな。汚れるぞ」
ヒオウギにとってアフグの『お前はもう一人の俺だ』という言葉がどれほど恐ろしい言葉だったかを、今になってアフグは気が付いた。
蝙蝠扇と一緒にされたら、檜扇はいつの日か捨てられてしまうことになる。
きっと彼はそれに怯えていた。
ただでさえ、絶対的な自分の存在を金と引きかえられてしまったことに傷ついただろうに。
まだ、金と引き換えられるだけの価値があるのだと自分に言い聞かせて、蝙蝠扇と違って自分は愛され、決して捨てられることはないと信じて、怯えていたのだ。
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