42人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
「なぁ、檜扇。姫様は最後まで幸せだったか?」
アフグが静かに問いかければ、ヒオウギは小さくこくりと頷いて、
「姫様の子も孫もずっと、幸せそうだったか?」
また、ヒオウギはこくりと頷いて、それからかすれた声で、
「だけど、いつの代か商業に失敗して・・」
「それで、」
「売られた」
ぽつりとつぶやいた。
アフグはヒオウギから離れて、彼の瞳を見つめた。
悲しみの色に染まったその瞳を見つめて、
「それじゃ、お前が姫様の家族を守ったんだ」
その時の檜扇を売った金がどれほどの足しになったのかアフグには全くわからない。でも、
「お前は売られてしまったけど、それは姫様の家族を助けたはずだ。俺はただ捨てられただけだったけど、お前は違う」
アフグは優しく笑った。
「俺たちは姫様のために作られた。そして、その役目はもう終わったんだ。姫様にこだわる必要はない。お前だって今はあんなガラスケースに入れられて大事にされているんだ。それで、いいだろ?」
アフグは地面に落ちているガラスケースを持ってきてやった。
中に入っている檜扇は横に倒れてしまっているが、無傷そうだ。
「今、俺たちを愛でてくれる人のために、今、俺たちはあればいい」
ヒオウギは大事そうにガラスケースを抱きしめて、コクコクと頷いた。
ヒオウギをまた黒竹箒の餌食にならないように鳥居の方に下がらせたところで、
「透!」
拓郎と悟が現れた。
最初のコメントを投稿しよう!