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◆
拓郎の言葉に全身が総毛立ち、悟も動けなくなりそうだった。でも、
ちりりん
どこからともなく聞こえた鈴の音。
その音に突き動かされて悟は駆けだした。
佳奈美たちは拓郎に気を取られていて、悟の動きに一切注目しない。
まるで、自分だけが違う次元で生きているような気分を味わう。
悟が駆ける先には、今やもう包丁を振りあげて、後は振り下ろすだけの状態の透がいる。
そして透の腕が動く。
まだ、あとちょっと、間に合わない。
「―――」
涙でのどが詰まって声が出なかった。
だけど、その代わりに、
ちりりん
また、あの鈴の音が聞こえた。
透にも聞こえたのだろう。
透は一瞬だけ、そっちに気を取られた。
だけど、それはほんの一瞬で、透の腕は振り下ろされて包丁が透の胸めがけて落ち、
だけど、そのほんの一瞬で、悟の腕が透の胸と包丁の間に入った。
激痛が腕に走る。
でも、そんなこと関係なく、悟は透をそのまま抱きしめた。
抱きしめたまま、悟が駆けた勢いのせいで二人一緒にその場に倒れた。
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