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その表情が言葉や態度とは裏腹に可愛らしくて、透は涙が止まらないまま笑って、そんな彼を見てちこも笑い、ホウキはムスッとしていて、
透はこんな風に人と触れ合うのは久しぶりだった。
ずっと、ずっと、多くのものを避けてきたのに。
何で避けていたのかも忘れて、彼は泣いて、笑っていた。
そう、忘れていた。自分が誰かと触れ合ってはいけない理由を。
そして、
「それではご検討ください」
遠くで聞き覚えのある声が聞こえた。
一瞬で涙が止まる。
あんなに止め方が分からなかったのに、あっさりと止まり、笑顔も消えた。
思い出した。理由を。
ちことホウキは声がした方に顔を向けていて、透の変化に気づいていない。
彼はこの神社に来る前の、何もかもに無関心な表情に戻ると、二人がこちらに向き直る前に素早く立ち上がって、
「俺、もう帰る」
「え?どうしたの?」
ちこの声が後ろから追いかけてきたが、彼は振り返らずに石段を駆け下りる。
石段を下りきって道路に出ると、うだるような暑さが一気にぶり返し、彼はダラダラと来た道を引き返して行った。
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