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「なっ・・えっ・・兄貴?」
肉を指した感触、流れ出る血、そして抱きしめられる感覚に、透はうつろな目を自分を抱きしめる悟に向けた。
「あに、き・・、あっ・・俺、また兄貴を傷つけて・・」
「―――」
悟はまた声が出なかった。
大事な時なのに。
「俺は、いつも兄貴を傷つけて、苦しめて・・」
「―――」
声が出ない。
言いたいことがあるのに。
そんなことはない。苦しめてきたのは自分の方だと謝りたいのに。
声がのどに詰まって出てこない。そして、
「だから、俺は、いなくなった方が・・」
「―――生きてて良かった・・・」
やっと出た言葉は、小さなかすれた声だった。
でも、透にはきちんと聞こえたらしい。
「でも、俺はまた兄貴にこんな怪我させて・・」
別にいいんだ。お前のせいじゃない。
と言いたいのに声は出なくて、透に言われて今まで気にしていなかった腕の激痛が気になってきて、
「この傷、すごく痛い」
「・・・」
悟が正直に言ってみれば、透は黙る。
謝ろうと考えていた。
透に会ったら真っ先に、絆創膏を見せつけるように貼って悪かったと言うつもりだった。
皆が透を避けていくなか、自分も避けているのではないかと不安になったとき、この絆創膏は安心を与えてくれていた。
そう正直に言って謝るつもりだった。
だけど、負い目を感じている者に謝ってどうなる。
昔の、仲が良かった頃の透を思い出す。
俺の後ろをついてくるくせに、なまいきで、反抗心旺盛で、嫌味には嫌味で返してきた弟。
あの頃のような会話を。
そう思いながら口を開けば、すんなりと言葉が出てきた。
「だから、この怪我が治るまで、こき使う弟が必要だ。この際だから手料理なんて作らせてみようか」
透のうめき声が体を通して伝わってくる。
「兄貴と一緒でヘタクソだよ」
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