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悟の憎まれ口に合わせた、透の憎まれ口に悟は思わず笑みがこぼれる。
「それじゃ、俺の腕が治ったら、一緒に料理教室にでも行くか。どっちが先に上達するか競おう。もちろん俺の方が早いけどな」
「兄貴の腕が治る前に俺が上達して、俺が教えてやるよ」
「やれるものならやってみろ」
久しぶりに憎まれ口をたたき合って、悟が堪えられず噴き出せば、透もつられて笑った。
悟が体を起こそうとすると、それだけで激しい痛みが全身を駆け抜ける。
それでも痛みをこらえて起き上がり、長椅子を背もたれに地べたに座る。
透も体を起こすと、透は悟の腕をじっと見る。
その腕にはまだ包丁が突き刺さっている。
「痛くないのか?」
「だから、めっちゃ痛いって」
悟がそう言うと透は俯いて、その俯けた透の顎を悟は蹴りあげる。
「いったぁ・・」
「これからこき使ってやるから、それでチャラだ」
その悟の言葉に、透は痛そうに顎をさすりながら、少し怯えたような瞳を悟に向けて、
「俺、これからも兄貴と一緒に暮らしていいの?」
悟はまた言葉が上手く出てこなくなる。
その代わりに涙は止めどなく溢れ出した。
「あ、兄貴?!やっぱり、腕が相当辛いのか?!」
透がその滴に慌てて、悟の腕に突き刺さっている包丁の周辺で手を当てもなく動かす。
ーーただの反抗期で片づけるつもりなら、危険だなーー
もうそのことは理解しているのに、拓郎の言葉がふいに思い出された。
「嫌われていた訳じゃなかったのか・・」
悟は思わず嬉しそうに言葉をもらしてから、
「この腕、めっちゃ痛くて辛いけどな、お前に避けられてた時の方が、もっと、もっとずっと辛かった・・」
「・・・ごめん」
透がまた俯こうとしたので、悟はまた足でけり上げてやろうとして、
「うん、わかったから、兄貴、安静にしとこう」
透に足を抑え込まれた。
透の肩越しに佳奈美の状況を見ると、佳奈美の方も落ち着きを取り戻している。
あとはさっきまでいなかったはずのホウキという女が倒れていて、アフグとちこが彼女に駆け寄るところだった。
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