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「ある程度腕が動くようになったんで、俺も参加してみたんだが・・」
悟は透の首から腕を外して、ため息混じりに言葉をもらす。
「調理器具が上手く扱えないんだ」
「手先が不器用なんですね」
あえて遠回した悟の発言を、ちこはずばっと切り裂く。
透は堪えようとせず、存分に笑いながら、
「他は完璧なのに、こんなんだから、料理教室のおばさんたちに可愛い可愛いって人気なんだぜ」
「こんなんって言うな」
また、悟は透の首に腕を回そうとして、
「楽しそうでよかった」
「透に触るな、変態」
透と悟の頭に伸ばしてきた拓郎の手をはじく。
悟が睨み殺すかのような目を拓郎に向ければ、拓郎のニコニコ笑顔がさらに嬉しそうになり、
「・・・・嗚呼、泣かせたい」
つぶやきが聞こえる。
そして、見事な素早さでホウキが動き、拓郎は石畳みを転がった。
ちこもアフグもドン引きで、悟の微かな震えが透に伝わる。
悟と拓郎の間に何があったのか、透は教えてもらえていない。
でも、拓郎はこれからも兄貴の会社に関わってくるみたいで、
だから、これからは俺が兄貴をあいつの魔の手から護るんだ。
透たちと拓郎の間に立つ、力強いホウキの後ろ姿に、透はそう誓った。
帰る時、石段の下までちことアフグ、そしてホウキも送ってくれた。
最後の段を降りようとした時、
ちりりん
鈴の音が聞こえた。
透と、そして悟も振り返る。
しかしちこたちは平然としている。
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