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「はい、できた。これで少しはすっきりするでしょ」
「ん。すまんな」
彼女は目の前に座る女の髪を首の後ろで一つにまとめてやった。
女が礼を述べながら彼女の方に顔を向ければ、チリンと女の真後ろで鈴がかわいらしい音をたてる。
「何だ?鈴か?」
女は音の根源を探そうとキョロキョロするが、チリンチリンと鈴が忙しなく鳴るだけで、鈴本体を見つけられない。
そんな女の姿に、彼女と、彼女たちの側にいる一人の男はクスクスと笑いをもらす。
「そうよ。鈴をね、貴方の髪を束ねるのと一緒にくっつけたの。私から貴方への贈り物よ。有り難く思いなさい」
「・・贈り物?」
「そう、贈り物」
「・・そうか、贈り物か・・・」
女は指で鈴の存在を確認し、口の中で言葉を反芻する。
そして、頬を朱色に染めながら、照れた笑みをもらした。
彼女は女のその反応に満足そうに頷いてから、女が持っていた黒い竹箒の端にも同じ鈴をくくりつけた。
そして、
「これは貴方によ!」
油断しきっていた男に襲いかかる。
「えっ?おい!何してんだ?」
男が困惑して何もできないでいるうちに、男の右耳たぶに穴を開けて鈴をくくりつける。
男が持っていた扇子の、親骨にできた穴にも鈴をつけた。
「何も、穴開けることないだろ・・・」
男は驚愕し、悲愴感漂わせながら自分にできた穴をさする。
「貴方は私の物よ。私の物を私がどうしようと私の勝手でしょ」
「なっ!」
彼女の身勝手な言葉に、男は反射的に怒り混じりの声をあげたが、
「なっ・・・」
言葉の意味を理解しはじめると、声は弱まり怒りの色は消え、表情が緩んでにやけた笑みを浮かべる。
「お前、気色悪いな」
「そっちだって、照れ笑いしてたじゃねぇか」
女のつぶやきに男が言い返せば、お互い睨み合うことになる。
男女の間に険悪な空気が流れたが、彼女は全く気にせず二人を見て満足気に頷く。
「さすが、私の見立て。二人とも良く似合ってるわ」
そして、彼女は自分の持っている鈴を鳴らした。
ちりん
ちりん、ちりりん
彼女の鈴の音に男女の鈴が共鳴し、彼女の笑顔に男女もつられて笑顔になった。
そして、今も、
ちりりん
柔らかな鈴の音と笑顔がそこにある。
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