鈴森神社

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「大事な客だから部屋には絶対入るなとか言って、部屋に入ったきりお茶も出さずに一時間も出てこないと思ったら、やっぱりこんなことになってたのか!」 「愛という名の情熱も冷ましてしまうのは、君の欠点だと思うよ、アフグさん」  若い男が怒鳴りながら拓郎に詰め寄り、拓郎はあの寂しげなニコニコ笑顔で言葉を返す。 「とりあえず、お客さんにお茶を・・」 「いや、もう用事は済んだから、帰ってもらおう」  拓郎がやはりニコニコした笑顔で悟と佳奈美を見、悟と佳奈美が立ち上がろうとした時、 「でも、佳奈美さんがここにいたいというのであればっ・・・」  佳奈美の方に身を乗り出そうとした拓郎に向けて、若い男が扇子を軽く動かすと、ただそれだけで拓郎はため息をついて体を引いた。 「お早めにお帰りください」  若い男が拓郎の視界に佳奈美が入らないような位置に立ち、笑顔で言った。  それは『早く逃げろ』と言われているようだったが、悟は彼の笑顔を見た瞬間、あることに気がついた。 「檜扇?」 「ああ、そう言われてみれば・・」  悟がつぶやくと佳奈美も気づいたらしく、納得の表情を見せる。  髪型、髪色、口調や態度、顔以外は全く似ていないために初めは気がつかなかったが、その顔は悟と佳奈美が知る人物に瓜二つだった。  若い男の方は悟のつぶやきに一瞬だけ表情を固めたが、それはほんの一瞬の幻のような程度で、 「あの、それはいったい何ですか?」  すぐに困った表情で言葉を返してきた。 「いえ、別に、気にしないでください。それより、あなたの名前を伺ってもよろしいですか?」  悟は温厚な営業スマイルをまた浮かべなおして彼に聞く。 「・・カワホリ アフグです。本日はお見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした」
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