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アフグはまた一瞬詰まったが、直ぐに丁寧な態度で答えて、玄関まで見送ってくれる。
拓郎ももちろん見送りに来ていて、玄関を少し出たあたりで悟と佳奈美は振り返り、
「それではご検討ください」
悟がそう言って頭を下げると、佳奈美もタイミングをそろえて頭を下げる。
「また来ます」
「検討しないので、もう来なくてもいいですよ」
悟が付け加えた言葉に、拓郎は寂しさの抜けた、あの当初のニコニコ笑顔で告げた。
「もちろん、佳奈美さんはいつでも大歓迎ですから」
悟は何とか営業スマイルで、佳奈美は顔をひきつらせながら、もう一度頭を下げる。
そして石畳の方からやってきた巫女装束の少女と黒い竹箒を持った作務衣姿の女性に会釈してから、鈴森神社を後にする。
石段を心なしか早足で降りながら、
「あれは、私たちを追い払うための演技だったのでしょうか?」
『あれ』というのはあの『佳奈美ちゃんラブ!』的な拓郎の態度のことだろう。
「それは俺にもわからないが、今回の相手が厄介だというのは確かだ。慎重に行こう」
「はい」
悟の表情から営業スマイルは消え、瞳が獲物を見つけた鷹のようにギラリと光る。
佳奈美は悟の言葉を聞くと、素早く各方面に連絡を取り始めた。
今回は拓郎のペースにはまり、いいようにされてしまった。だが、次からはそうはいかない。
神の存在など役に立たない。
そして役に立たない神のための社に要はないのだ。
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