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透は当事者でないこともあって、詐欺の噂を軽く鼻で笑ったが、彼がちこの方を見ると、彼女は深刻そうな表情を浮かべていた。
「ちこ?」
軽く声をかけると、ちこははっと我に返って、仕切りを開いて台所に入る。
「お父さん、運ぶの手伝うよ」
彼女は明るくそう言って、手を出した。
平然を装っているのだろうが、その表情も口調もどこかぎこちない。
それを台所の中にいた四十代くらいのニコニコとした笑みを浮かべた男・拓郎も、五十代くらいの小太りな女・木田のおばさんも察したのだろう。
「木田さん。すみませんがあの少年と一緒に皆のところに先にスイカを持って行ってもらえますか?」
木田のおばさんは拓郎の言葉にほほ笑みで答えると、
「さぁさぁ、これを持って」
半ば無理やりに透にスイカののった盆を持たせ、透の背中をばしばし叩きながら、ちこと拓郎を残して台所から離れていく。
「あんた見ない顔だね。うちのスイカは美味しいから、たんと食べてきなさい」
「は、はい。ありがとうございます」
確かに、みずみずしく真っ赤に熟したスイカはとてもおいしそうだ。
だがしかし、なぜにおばさんとはこうも人の背や肩をたたきたがるのか。
痛いからやめてくれないかな、と思うも、木田のおばさんの迫力に負けて、透は弱弱しくお礼を言うことしかできなかった。
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