鈴音様とスズ森と…

17/17

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
 ちこはこの鈴森神社が当たり前の存在過ぎて、普通ではないことに気が付いていない。  しかも中途半端に現実主義なものだから、まだ彼らのこともきちんと理解していないだろう。  だからこそ、彼らを普通の人として接することができる、という利点を持っているのだが。 「町の人たちだって、この神社の事はよく知っているはずだ」  まだ不満そうなちこの頭をぐりぐり動かしながら、 「信じなさい。そんで、明るく笑いなさい。私もお前もそんなに賢くないんだから、難しく考えるだけ疲れちゃうよ」 「お父さんと一緒にしないでよ!」  ちこは怒鳴りながら拓郎の手を振り払った。  でもその表情には、彼女持ち前の明るい笑顔が浮かんでいる。 「それより、早く行かないとスイカ無くなっちゃうよ」  拓郎の言葉にちこは驚愕の表情になると、すばやく廊下に駆け出していったが、途中で立ち止まり振りかえって、 「先に行ってお父さんの分もとっとくからね!」  それだけ言って、また全速力で駆けだした。  木田のおばさんが向うにいる以上、自分達の分は確保されているであろうことにも気付かずに。 「全く・・」  拓郎はやかんに沸かしておいたお茶と、適当な数のコップを盆にのせる。  スイカは水分が多いと言っても、お茶が欲しくなる子もいるだろう。  それを運びながら、 「全く、うちの鈴を買いもしないでこんな噂を流してくるとは・・」  思い出すのは勝気な男女の姿。 「意外と大したことないのかな?征服しがいがあると思ってたんだけど」  拓郎はいつものニコニコ笑顔のまま、そうつぶやいた。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加