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ちこはこの鈴森神社が当たり前の存在過ぎて、普通ではないことに気が付いていない。
しかも中途半端に現実主義なものだから、まだ彼らのこともきちんと理解していないだろう。
だからこそ、彼らを普通の人として接することができる、という利点を持っているのだが。
「町の人たちだって、この神社の事はよく知っているはずだ」
まだ不満そうなちこの頭をぐりぐり動かしながら、
「信じなさい。そんで、明るく笑いなさい。私もお前もそんなに賢くないんだから、難しく考えるだけ疲れちゃうよ」
「お父さんと一緒にしないでよ!」
ちこは怒鳴りながら拓郎の手を振り払った。
でもその表情には、彼女持ち前の明るい笑顔が浮かんでいる。
「それより、早く行かないとスイカ無くなっちゃうよ」
拓郎の言葉にちこは驚愕の表情になると、すばやく廊下に駆け出していったが、途中で立ち止まり振りかえって、
「先に行ってお父さんの分もとっとくからね!」
それだけ言って、また全速力で駆けだした。
木田のおばさんが向うにいる以上、自分達の分は確保されているであろうことにも気付かずに。
「全く・・」
拓郎はやかんに沸かしておいたお茶と、適当な数のコップを盆にのせる。
スイカは水分が多いと言っても、お茶が欲しくなる子もいるだろう。
それを運びながら、
「全く、うちの鈴を買いもしないでこんな噂を流してくるとは・・」
思い出すのは勝気な男女の姿。
「意外と大したことないのかな?征服しがいがあると思ってたんだけど」
拓郎はいつものニコニコ笑顔のまま、そうつぶやいた。
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