それぞれの能力

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 でも、それも仕方がないのかもしれない。  自分は不幸を呼ぶから。  誰だって不幸を呼ぶ人間と一緒になんかいたくない。  だけど、一応、たった一人の弟だから、兄は一緒に暮らしてくれる。  前まではそれが嬉しかった。  でも今は、それが逆に辛く、いらだちを覚える。  いっそのこと突き放してくれた方がまだマシだった。  透はざっと着替えると、お金をつかんでポケットに押し込む。  兄の金をあてに生きることが、自分が子供だと認めるようで嫌だった。  でも今はまだ、兄をあてに生きるしかない自分がいて、そのやるせなさによって透は無気力な顔つきと足取りで商店街へと向かった。    弁当屋で適当に昼食を買って店を出ると、商店街は妙にざわめいていた。  何事かと人が集まっている方に寄ってみると、怒鳴り声が聞こえてくる。 「調子乗ってんじゃねぇぞ!」 「調子に乗ってるのは、あんたの方だろ!」 「君たち!落ち着きなさい!」  そこでは若い男が二人、今にも取っ組み合いを始めそうな剣幕で喧嘩をしており、その喧嘩をやめさせようと商店街のおじさんたちが四苦八苦している。  町のお巡りさん的な警官も来ているようだが、まるで役に立っていない。  ただでさえ暑いのに、そこからは熱気があふれだしている。  皆汗だくで、透は嫌悪感を覚えてその場をUターンして立ち去ろうとした。その時、  冷たい風が商店街を吹き抜けた。  背中に受けたその冷気で、振り返らなくても誰が来たのかすぐにわかる。 「熱くなり過ぎじゃない?」  飄々とした男の声が今や静まり返ったこの場に響く。
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