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【 ちりりーん
ちりりーん
スズしげな風が、スズしげな音色を運んでくる。
その心地よい風と音が現代人の疲れた心と体を癒してくれる。
それが鈴森であり、鈴森神社である。
・・・・・・・・・・・】
「馬鹿馬鹿しい」
二十代半ばの若い男は読んでいた書類の束を机に放り捨てる。
清楚と柔和の印象を与える短い黒髪をしているが、その瞳には力強い意志を秘めている。
「それで、いかがいたしますか?」
机の前に立つ女が聞く。
長い黒髪をきっちり頭の後ろに結いあげ、知的度を高める眼鏡をかけていても気の強そうな目が印象的な、いかにもキャリアウーマンという雰囲気の三十歳前後の女。
男は机の上の書類を見下すように見つめ、指先に貼られた絆創膏を擦りながら、言葉をもらす。
「もうすぐ、夏休みか・・」
それから顔を上げ、直立不動の女に告げる。
「弟の夏休み中に片を付ける。八月中は現地で暮らす。居住の手配を」
「かしこまりました」
女は直ちに仕事に取り掛かり、男はまた書類に目を落とした。
その瞳はとても冷ややかで、顔に浮かぶ笑みは嘲笑。
男は思う・・馬鹿馬鹿しいと。
納得できないのだ・・癒しだの神だの、そんな曖昧なモノが称えられる理由が。
だから、
「神社をとっとと潰して、さっさと工場を建ててやるか」
そう、つぶやいた。
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