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透が振り返れば、そこにはやはりアフグの姿があった。
商店街の人々は皆安堵の表情を浮かべるが、
「部外者は引っ込んでろ!」
喧嘩をしていた男の一人が、アフグを見てまた怒鳴り散らした。
それに対し、もう一人も同じように怒鳴って二人はまた喧嘩を始めようとする。
その様子にアフグは目をきょとんとさせてから、心得顔で笑みをもらし、
「何だ、演技だったのか。それは邪魔をしたね」
今度は喧嘩をしていた二人が驚く番だった。
「素晴らしい演技だけど、あまり町の者を驚かせないでやってくれ」
アフグは喧嘩していた男二人の横を、スタスタと通ってその場を後にしようとし、商店街の人々も
「すっかり騙されたよ」
「まったく驚かさんでくれ」
などと感心の言葉と、中には賞賛の拍手を残して皆去っていく。
喧嘩していた二人は取り残されそうになって、
「ふ、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」
一人がアフグの肩をつかみ、アフグが振り返るのと同時に殴りかかろうとした。
しかしその振りあげた腕は、アフグがそよりと動かした蝙蝠扇の冷気を受けてぴたりと止まる。
「図星指されて頭に血が上っちゃったかな?」
腕を振り上げたまま、気まずげな表情で凍ったように固まる男。
その男に向けて、アフグは柔らかな微笑を浮かべる。
「ごめんね」
「お、おい。帰ろう・・」
もう一人がアフグの肩をつかんだまま動けなくなっている方を促す。
二人はその場を駆け足で去っていこうとして、その途中でボケっと突っ立っていた透にぶつかった。
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