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悟にあてがわれた仕事部屋には、佳奈美の他に二人の男がいた。
二人の内一人は気まずそうな表情で、もう一人は不機嫌な表情を浮かべながら自分の足を手当している。
男の足首の内側は皮膚が少々えぐれて血がにじみ出ていて、地味に痛そうだ。
「つまり、髪が紺色の扇子を持った男に演技だとばれてのこのこ帰ってきたわけか」
「・・・」
悟の言葉に男たちは言葉もないようだ。
悟の脳裏には、鈴森神社で出会ったアフグの姿が浮かぶ。
拓郎の手下の一人であろうが、あの二人の演技をあっさりと見破るとは、なかなかの洞察力を持っているようだ。
商店街や町の雰囲気を悪くして、鈴森神社への町の人々の信仰を無くさせる作戦の一つだったのだが、あっさりと破られてしまった。
実際この作戦自体、ちまちまとしたせこいものであるが、そういうものを積み重ねていって鈴森神社に味方する町の者を少しでも減らしておくつもりだった。
しかし、ちょっとのチリすら積もらせないほど信頼が大きいとなると、手強い。
「わかった。まぁ、いいだろう。この後もいつも通りやってくれ」
悟はそう言ってから、地味に痛そうな傷を見つめて、
「で、それはどうしたんだ?」
「・・・ちょっとな」
「下水溝に落ちたんだよ」
足を怪我している方は言葉を濁したのに対し、もう一人の男がはっきりと言った。
そのため、怪我をしている方はもう一人を激しく睨みつける。
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