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「戻りました」
今にも本気で喧嘩が始まりそうな部屋に、一眼レフを持った男が入ってくる。
そいつは腰を痛めたらしく、腰をさすりながらよろよろとした足取りで、カメラを悟に渡した。
悟は液晶画面で画像を確認する。
そこには作務衣姿で髪の長い、ホウキと言う名の女が、いかにもチャラそうな男二人を竹箒で叩き飛ばしている様子がきれいに写っているはずだった。
しかしどんなに画像を確認してもそれらしい映像はどこにもない。
ホウキが竹箒で人をはたき飛ばすのは、この鈴森神社では有名だった。
この町の人間はそんな彼女の行動を気にも留めていないようだが、立派な障害として被害届を出すことだってできた。
だからこそ、わざわざはたかれ役を用意して、その写真を撮ろうとしたのに。
「これはどういう事なんだ?」
一眼レフを持ってきた男は腰をさすりながら、不服そうに話しだす。
「隣町で雇ったチャラ男たちがいきなり改心したんですよ。写真見せてくれって言うから見せたら、画像全部消されて、前金も全額返してきて『やっぱまじめに働いた金じゃないと楽しめないっすから』って、親の金で遊び呆けてた奴がどの面下げて言うのやら」
ねちねちとつぶやくように不満を漏らし、
「めっちゃ晴れやかな笑顔で言ってましたけどね。そんで隣町に帰りましたとさ」
最後にそう吐き捨てると、近くの椅子にそっと座った。
「そうか。それで、その腰はどうしたんだ?」
「・・・石段で躓いた」
恥をこらえるように、ぼそっと答えた。
「それより、そっちは順調か?」
その問いに悟は眉をひそめる。
「あの町以外に在住する所有者からの買収は済んでいるが、町に在住の所有者たちは一切売ろうとしない」
皆一様に鈴森神社が好きだと言う。
だが、こちらも社長直々に何としても手に入れろと言われている身だ。
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