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三十度を軽く超えるうだるような暑さ。
透(とおる)はだらだらとやる気なく、見知らぬ町を散策する。
越してきたばかりの家には、まだ紐を解いていない荷がたくさんあるが、どうせ夏休みが終わる九月にはまたどこかに越すのであろうから、荷を解く気すら起きない。
それ故に、暇を持て余した彼は町に繰り出したのだった。
最近まで暮らしていた町は大都会で、高層ビルが建ち並び、車の排ガスや騒音が実に不愉快だった。
だからと言って、高層ビルはなく空が広い、車も比べれば断然少ないこの田舎町が良いとも思わない。
結局はどこも同じ。何の意味もなく過ぎていくだけ。
この町にしてみれば栄えているのであろう商店街を抜けると、うっそうと木々が茂る山が見えた。
山と道路の境を無意味に少し歩いたところで、
ちりりん
ひんやりとした風と共に、かすかな鈴の音が彼のところに届いて、透は足をとめた。
風と音が来た山の方に顔を向ければ、木々を割くようにして石段が伸びている。
その脇には『鈴森神社』と彫られた石が置かれており、少し見上げると百段近くありそうな石段の終点に、赤い、鳥居らしきものが見える。
見ているだけでも嫌になるその光景から目をそらし、また無意味に道路を進もうとした時、
ちりりん
また、聞こえた。
透は好奇心に負ける。
こんな日にこんなのを上ろうだなんて、暑さで頭がバカになったか?
そう思いながら彼は石段に向けて足を出す。
でも、そこに一歩足を踏み出せば、涼が汗ばむ肌をなでた。
息を吸い込めば、冷たい空気がスッと胸に入って体の奥から冷やしてくれる。
空気が違う。
こんな感覚初めてだった。
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