兄弟扇子

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「そんなむしり方じゃ、またすぐに生えてきちゃうぞ」  ちこ、ホウキ、アフグが森からベンチの方へ侵略してきている雑草たちをむしっている所に、拓郎の声がかけられた。  三人は振り向いてぎょっとする。  普段は寝ぐせですら髪の個性と言い張り放置している拓郎が、きっちりとスーツを身にまとい、髪もきれいに整えている。  三人の脳裏に浮かんだのは昨晩の特集番組。 「婚活に行くのか?」 「私は別に新しいお母さんとかいなくてもいいよ。月一で会ってるし」 「ネクタイ似合わねぇな」  それぞれが発した言葉に拓郎は笑い、 「違うよ。裁判所に行くんだ。形から誠意を見せようと思ってね」  拓郎はいつものニコニコ笑顔で言いながら、ネクタイをおもむろに外し始める。  『似合わない』というホウキの言葉を気にしたようだ。 「似合ってなくてもしてった方がいいよ」  ちこはネクタイを外そうとする拓郎の手を止める。  鈴森神社のお守りを詐欺扱いした噂があったことをちこは思い出したが、今回は顔をくもらせずに、 「がんばってね!」 と、力強い瞳で拓郎を見つめて言った。  そんな大げさなちこに拓郎はまた声をあげて笑い、 「そんな意気込まなくても、ちょっとした部屋でちょっとした話をするだけさ」  ちこの肩を軽く叩いてから、拓郎は三人を残して石段へと向かっていき、一度振り返って、 「それじゃ・・」  晴れ晴れとした笑顔で、 「佳奈美ちゃんに会ってくるね!」 「それが目的か!」  アフグの叫びすら追い風にして、拓郎は石段を駆け下りていった。 「なぁ、ちこ。あれも婚活って言うのか?」 「知らない」  ホウキがなんとなくちこに問いかける。  ちこは不機嫌を隠さずに言葉を放って、既に呆れきって草むしりを再開させているアフグと同じようにまた雑草を抜き始めた。
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