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昼までまだ時間のある午前中に透は鈴森神社に訪れた。
ちらりと後ろを振り返れば、太陽の光を反射していっそうキラキラと金を放つ髪と、鮮やかで見事なペイントを顔や手にしているヒオウギがいる。
ヒオウギは興味津々で周りをきょろきょろ見回しているが、きちんと透の後をついてきている。
手にはあの扇子が入ったガラスケースを持っていて、重くないのか疑問なところだ。
だが、誇らし気な様子からするに、重さは関係ないのだろう。
はっきり言って、透はこんなど派手な男と一緒に歩きたくなかった。
しかし、自分に似ているアフグに会いたいと言ってうるさく、また兄のこともあるので連れてくるしかなかった。
透の予想通り、この時間帯の鈴森神社は人気がなかった。
まだ涼しい午前中にやることをやって、うだるように熱い午後に鈴森神社に涼みに来るのがこの町の人々の習慣になっていることが透にもわかってきていた。
神社ではこれまた予想通りホウキが長椅子に寝そべっている。
予想と違うことといえば、ホウキの隣の長椅子にちこがジャージ姿でホウキと同じように寝転がっていることだった。
「お前らだらけすぎだろ」
「透君、おはよー。もっと早く来てくれればよかったのに」
ちこは顔を上げず、手と言葉だけで応答する。ホウキの方は完全無視だった。
「アフグは?」
「草むしりでむしった雑草を片付けに行ったところ。すぐに戻ってくると思うよ」
そう言われて透は初めてベンチの周りで伸び放題になっていた雑草がきれいにいなくなっていることに気が付いた。
そして、もっと早くに来てしまっていたら手伝わされていたことを知る。
「それじゃ、ここで待とうかな」
ヒオウギが楽しそうに空いている席にハンカチのようなレジャーシートを敷いてから座る。
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