兄弟扇子

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 アフグの表情が歪む。  それはひどく悲しげで、羨ましげで、今にも泣いてしまいそうな傷ついた表情。 「アフグ?」  アフグの異変にホウキが声をかけると、アフグはまた一瞬にしていつもの表情に戻った。  そしていつもの口調で、 「なんだ、お客さんが来てたのか。それじゃ、お茶をもう二つ持ってくるよ」  それがあまりにもいつもと同じ調子であったために、透は自分が幻覚を見たのではないのかと思った。  ヒオウギの方は、親しい友人のように話しかけたのに、それを完全無視でまるで初対面のようにふるまってくるアフグの態度に不機嫌な表情を浮かべ、 「千年ぶりに会った弟に対してその態度はひどいんじゃない?」 「俺はお前の兄なんかじゃない!」  アフグが珍しく感情的に怒鳴った。  透もちこもホウキも驚いて何も言えなくなるが、ヒオウギだけは楽しそうに、 「でも、同じ職人に作ってもらった扇子同士じゃないか」 「・・・」  アフグは悔しそうに黙った。  アフグとヒオウギの間にぴりぴりとした空気が漂う。  アフグは睨みつけるように見ていたヒオウギから視線をそらすと、つかつかとホウキの隣の長椅子まできて偉そうに座る。  お茶の乗った盆を置き、そのうちの一つのコップを一息に空にした。  そして着物の帯に挟んでいた蝙蝠扇を取り出して、バッと勢いよく開くとパタパタと自分を扇ぎはじめる。
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