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「それで檜扇が何でここにいるんだ?」
アフグはさっきまでの感情的な態度が嘘のように消えて、落ち着き払ってヒオウギに話しかける。
ヒオウギを知らないふりをするのも辞めたようだ。
しかし、いつもに戻ったわけではなく、その口調や態度はひどく冷たい。
「お前も捨てられたか?」
「まさか!僕は蝙蝠扇と違って豪華で価値が高いからね、捨てられるわけがないだろ?」
アフグの冷たい言葉をヒオウギは小馬鹿にした笑い声を立てながら返すが、
「それじゃ、売られたか」
「・・・・・」
次に放たれたアフグの言葉に今度はヒオウギが黙り込む番だった。
しかし、自分で気を持ち直して、
「まぁね。でも、高値がついてね、今もこんなガラスケースに飾られているんだ」
どうだ、とばかりにヒオウギは持っているガラスケースを掲げる。
中の扇子が太陽の光を浴びて、彼の髪同様にきらりと金が輝く。
「蝙蝠扇こそ、よくここにいられるよね。この森すごく涼しいから、涼しくさせること以外に取り得のない蝙蝠扇なんか使い物にならないんじゃないの?」
ヒオウギがまたうっすらと唇に笑みを広げて言葉を放つ。
しかしアフグは一切感情的になることもなく、パタパタと自分を扇ぎながら、
「それがここには、夏どころか冬だって関係なく熱がる奴がいてな。俺は年中働きっぱなしだ。捨てられたからこそ出会えたんだろうな」
まったく動揺しないアフグにヒオウギから笑みが消える。
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