鈴森神社

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 透は夢中になって階段を駆け上がる。  息を切らしながらも上りきって鳥居をくぐると、目の前にはだだっ広い石畳が広がっている。  そしてその奥に神の社があるわけだが、この石段と石畳に対してずっと質素でちっぽけな社だった。  だが逆に、荘厳さの欠けるその社は神妙なたたずまいで、この場の空気を支配している。  彼は息を整えながら、額に浮かんだ汗をTシャツの袖で拭った。  普段汗をかいて気持ちいいなんて思ったこともない自分が、今は汗だくなのに爽快な気分を味わっているのが不思議でならない。 「・・何もねぇな」  少し落ち着いてからよくよく境内を見まわして、思わずつぶやきがもれた。  この神社には石段、鳥居、石畳、社までは一応ある。  しかし、その他は鳥居をくぐってすぐの右側に、この神社の由来が書いてある立て看板と、少し進んでお守りなどの売り場、その売り場の裏にこの神社の管理者が居住しているらしき、昔ながらの日本家屋が建っている。  左側は休憩用らしき長椅子だけがずらりと並んでいた。その奥には山の木々が並んでいるだけで、本当に長椅子しかない。  手水舎や狛犬などもいなかった。  今がお昼間際の微妙な時間帯だからか人の姿もなく、いるのは透と、境内を掃いている女性が一人だけ。  その女性は太ももあたりまで伸ばした黒髪を首の後ろで一つに束ね、この神社の者なのだろうが、巫女装束ではなく地味な作務衣に身を包んでいる。  手に持っている竹箒は逆に汚れでも撒き散らしそうな黒い色をしているけれど、その柄の先に紐で付けられた鈴が、女が箒を動かすたびにチリチリとかわいらしい音を立てる。  また、女の黒髪を束ねている部分からも鈴は提げられており、黒髪の中を揺れている。  石段の下で聞いた鈴の音は彼女のものだったのだろうか。  ちりん  透が女性を観察していると、ふと彼女がこちらに顔を向けた。  黒髪につけられた鈴が揺れて軽い音を立てる。
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