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ヒオウギの姿が石段を下りて消えていこうとする。
アフグは未だに蝙蝠扇で自身を冷やし続けている。
ちこも未だに呆然と突っ立っていて、ホウキは寝転がったまま。
透には何もできない。
それどころか、自分がヒオウギを連れてきたせいでこんなにも気まずい空気を作りだしてしまったことが、透の心にのしかかる。
自分のせいで、また誰かが嫌な思いをする。
「お前、弟なんていたんだな」
「あいつは弟じゃない」
ホウキが長椅子に寝転がりながらアフグに声をかけ、アフグは何の感情もこもらない声で応じ、
「あいつは・・もう一人の俺だよ」
ヒオウギの姿が見えなくなると、ぱちりと蝙蝠扇を閉じて、アフグは淋しげにつぶやいた。
その顔は今にも泣きそうで、その声は弱弱しかった。
自分はアフグを傷つけた。
もう限界だった。
透はこの場に留まっていられず、石段の方に消えたヒオウギを追いかけて、
ちりりん
鳥居の真下、石段を降りる手前でその鈴の音が聞こえた。
初めてこの鈴森神社に訪れた時を思い出す。あの時もこんな鈴の音を聞いて、そして、誘われるようにこの神社まで石段を駆けあがった。
そして今度は透を引き留めるように聞こえた鈴の音。
だけど、透はその音を振り切って、ホウキやアフグ達の方を振り返ることもなく、下の方でまだ階段を下っているヒオウギを追いかけた。
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