42人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
◆
鈴森神社を出て、商店街とは違う方向に当てもなく歩くヒオウギ。
その数歩後ろを、透は黙ってついていく。
しばらくするとヒオウギはくるりと透の方に振り返った。
その表情は不機嫌そうで唇をとがらせている。
「何でついてくるの?」
「だって、兄貴に言われてるから」
兄なんて関係なかった。
でも、自分でもなんでついているのかわからなくて、透は兄を言い訳に使った。
透の返事にヒオウギはさらに不機嫌そうに顔をゆがめ、
「お前ら兄弟の会話の方が短くても・・・いいな」
「そうか?」
「そうさ」
「・・・」
どこが?
ヒオウギの言葉で透も不機嫌になって、でも何でヒオウギの後を追うのかわかった気がした。
自分達は兄を困らせる弟同士なんだ。
「ついてくるなら横歩けよ。気になるから」
「でも俺・・」
「あ、でも、僕には触るなよ」
透の言葉を遮って付け加えられた言葉に透は無性に腹が立って、また当てもなく歩き始めたヒオウギのギリギリ真横を歩いてやる。
「近いんだけど」
「触ってはないだろ」
お互い不機嫌のまま、しばらく蝉の鳴き声だけがその場に響く。
透は数日前にアフグと一緒に歩いたことを思い出す。
その時のアフグは明るく笑ってホウキのことで透をからかっていた。
――あいつは・・もう一人の俺だよ――
先ほどのアフグの言葉を思い出す。
今にも泣きそうな表情も。
最初のコメントを投稿しよう!