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「ヒオウギとアフグって本当に兄弟なのか?」
アフグの言葉が気になってヒオウギに問いかける。
「まぁ、同じ職人に作られたんだ。親が同じなら兄弟じゃないのか?」
兄弟説を疑われていることが気に入らないのか、ヒオウギは皮肉気に言葉を返してくる。
また蝉の声しか聞こえなくなって、しばらくすると、
「・・・僕たちの親はさ」
ヒオウギが少し遠くを見ながら、ぽつりぽつりと話し出す。
「身分違い甚だしく、姫様を愛していた。姫様って言ってもその地の地主の娘なんだけどな」
ヒオウギは『姫様』という言葉をひどく愛おしげに口にし、だけどその表情はひどく悲しげだった。
◆
透と、アフグの弟らしい派手な『ヒオウギ』という名の男がいなくなった後、少ししてアフグは蝙蝠扇でホウキを扇ぎはじめる。
表情は無く惚けており、ホウキを扇ぎはじめたのもいつもの習慣で無意識のようだ。
ちこはアフグの隣に座り直し、アフグが持ってきてくれたお茶を飲んでから、
「カワホリさん、『蝙蝠扇と姫様』の話、してくれますか?」
「・・・今かぁ?」
アフグは非常に嫌そうな顔をしたが、ちこは明るくこくんとうなずいた。
『蝙蝠扇と姫様』の話はこの町では知らない者はいない。
アフグも鈴音の話をするのと同じように話してくれた。
だから今回もちこはいつものように話してくれることを期待した。
アフグはしばらく黙っていたが、大きくため息をついて嫌々話しはじめる。
「昔々あるところに、職人がいました・・・
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