42人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
【昔々あるところに、職人がいました。
職人は扇子を作って生活していました。
ある夏の日、職人はその腕を見込まれ、姫様のいるお屋敷に招かれました。
それはそれは美しい姫様で、職人は一瞬にして恋に落ちてしまったのです。
職人は姫様が夏の暑さに苦しまないように蝙蝠扇を作ることにしました。
姫様が涼しく過ごせるよう、姫様に使っていただけるよう、姫様への想いを込めて作りました。
できた蝙蝠扇は飾りもなくとても質素でしたが、その分とても涼しく使いやすくて、軽く一振りするだけで冷たい風が夏の暑さを忘れさせてくれました。
姫様もとても喜んでくれました。
しかし、姫様はもっと金持ちで偉い身分の殿方のもとに嫁いでしまうことになりました。
職人はとても悲しみましたが、姫様の幸せを願い、嫁いでいく姫様を見送りました。
蝙蝠扇は姫様と一緒に殿方の屋敷に行きました。
しかし、姫様に新しく見た目の美しい豪華な扇子が与えられたこともあり、見た目のみすぼらしい蝙蝠扇は次の夏が来る前に捨てられてしまったのです。
まだ使うことができるのに捨てられてしまった蝙蝠扇は、込められた姫様への想いの分、ひどく悲しみました。
姫様への想いしかない蝙蝠扇は、職人のように姫様を祝福することはできません。
ただ悲しみ、ただ傷つき、そしてその辛い想いを他の人々に向けてしまいました。
涼しむための風は、人々を寒さで凍えさせ、畑の作物も全く育たなくさせてしまいました。
そして、蝙蝠扇は人々を困らせる妖となってしまったのでした。】
最初のコメントを投稿しよう!