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「そんな話があったんだね」
アフグが本当に傷つき寂しげであるので、ちこは話題を掘り下げたことに少々申し訳なくなって、
「ところで、『檜扇』ってどう使うの?飾っておくのはともかく、扇ぐには重そうだったけど」
「あれ?ちこは知らない?」
ちこが明るい口調で問えば、それに合わせてアフグもいつもの明るい口調に戻して話しだす。
「昔の女性って、扇子で、こう、顔を隠したんだよ」
アフグは蝙蝠扇を自らの顔の前にかざし、実践してくれる。
「ああ、なんか古典でやったかも。あれ?歴史だったかな?」
「ちゃんと勉強しろよ」
アフグはいつものように明るく笑い、ちこも合わせて笑った。
でも、いつもを装っていても、そこにはいつもはない暗い影があることをちこは気付いていた。
◆
「職人はまず蝙蝠扇を作り、でも、夏にしか使ってもらえないから、次に檜扇を作った。自分の扇子を姫様の傍に年中おいてもらいたかったから。そして、蝙蝠扇は姫様が嫁いで捨てられてしまったが、檜扇は捨てられることなく、ずーっと姫様の傍にいた」
ヒオウギは誇らしげに透に語る。
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