鈴森神社

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 ドキリと彼の心臓は跳ね上がり、透はすばやく目をそらした。  目をそらしても心臓は正常時よりも速い速度で鼓動を続ける。  彼女が目を疑うような美女だったとか、そういうわけではない。  むしろ一瞬しか見ていないので顔はよくわからなかった。  しかし、しなやかな動きとそれに合わせて揺れた黒髪と鈴、それに一瞬だけ合った黒い瞳を、美しいと思ってしまったのだ。  透は立て看板の方に歩み寄り、鈴森神社の由来を読むふりをすることで、作務衣の女性を気にしていない風を装う。  そして彼女の方をまたちらりと目を向ける。  彼女はさっきと同じように境内を掃き続けているだけで、全くこちらに興味を示していない。  ちらちらとではあるが改めて彼女をよく見ると、自分よりも二つ三つ年上の高校生ぐらいに見える。  時折聞こえる鈴の音と、規則的な箒の音がこの境内でゆっくりと静かに響い・・ 「クロタケさーん!宿題終わったんで、掃除変わりますよ!」  そんな大声が響いたかと思えば、売り場の裏から巫女装束の少女が現れた。  作務衣の女性ほど髪は長くないが、それでも背中の真ん中あたりまである長い黒髪で、同じように首の後ろで一つに束ねている。ただし、巫女装束の少女の方には鈴は付いていない。  言葉は聞き取れないが、彼女たちは数度言葉を交わし、そして巫女装束の少女は透に気がついた。気がつくや否や、彼の方に駆け寄ってきて、 「初めて見る子だね。引っ越してきたの?それとも観光?帰省なら一回ぐらい会ったことあるだろうし」  うるさい女だった。しかもガキ扱いしてるし。  透は巫女装束の少女を完全に無視して、立て看板の文字を目で追う。 《鈴森神社は、元は『涼しい森』ということから『すずもり』と呼ばれており、そこに・・》 「てっめ、ちこを無視してんじゃねぇよ!」
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