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普段なら、違う地域だったら絶対に言わなかっただろう。
でも、鈴森神社に来てから透は奇妙なほど素直になった自分に驚いていた。
兄といる時は変わらずひねくれてしまうのに、この土地は、特に鈴森神社では、そして鈴森神社で時々聞いたこの声の前では素直に答えさせられる。
「俺に触った奴は、みんな不運な目に会うんだ」
周りにいた人々が透の言葉にざわめくが、彼を後ろから抱きしめている男は何の動揺もしなかった。
そしてまたあの優しい声で問いかけてくる。
「不運ってどんなこと?」
「火傷したり、階段や段差で転んで怪我したり、学校のプールや友達と行った川や海では必ず溺れて死にかける」
透は周りの人々を見ていることができずに、目線を下に向けて自分のつま先を眺める。
透を抱き押さえている男はその言葉にもまだ彼を放そうとも、彼から離れようともせず、お気楽な口調で話しかけてくる。
「ふーん、それで?」
「え?それで、て・・・」
「誰か死んだの?」
「・・いや、死んではないけど・・」
「なら、気にすることないんじゃない?」
男は透の耳元でケタケタ笑い、やっと透を開放する。
ただ、それでも彼の肩に手を置いてはいるが。
透が振り返って男を確認すれば、そこにはやはり四十代ぐらいのしわが目立ち始めた顔にニコニコとした笑みを浮かべた拓郎がいた。
神社で見る時とは違うスーツ姿で、だけどネクタイもしてなければ首元のボタンも外しているため、よれただらしない雰囲気が漂っている。
これならいつものラフな着物姿のほうが様になっているだろう。
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