もう一組の兄弟

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 拓郎は手で透の頬を上げ、無理やり笑顔を作ろうとしてくる。  透はその手を振り払おうとしながら、 「何、訳のわかんないこと言ってんだよ」 「明るく笑えば、とりあえず悪いものは飛んでくから」 「いや、本当に訳わかんないんだけど」 「なら透君は私が怪我をしてもいいと思っているのだね」 「そんなこと言ってないし」 「じゃあ・・」 「やめ・・」  拓郎が迫ってきて、透は退こうとしたがバランスを崩した。  しかし、ちょうど後ろにいた商店街のおじさんがしっかりと支えてくれる。  そのおじさんはくすくす笑っていた。 「全く、拓郎は相変わらずだな。拓郎に負けるなよ、少年」  おじさんが声をかけてきて、それで透は初めて視界が開けた。  さっきまで透を神妙そうに眺めていた周りの目は、透と拓郎のやり取りに、というよりも主に拓郎の言動にみんな笑顔を浮かべている。  透も拓郎を見返してみて、本気で自分を笑わせようとしているよれよれスーツの四十代オヤジに、つい噴出した。  集まっていた人々は問題が解決したとしてそれぞれ解散していく。  小学生たちも、たけちゃんの怪我を商店街のおばさんに手当てしてもらってから、一応川はやめて山に遊びに行く計画を立てて去っていく。  透のもとに残ったのは拓郎だけだった。  拓郎はやはり今もいつものニコニコ笑顔だが、その笑顔になんだか勝ち誇った雰囲気が含まれているのが癇に障った。  でもそれでもそんな拓郎の姿に透はまた噴出して笑ってしまう。 「遅いぞ、透。何笑ってんだよ」  拓郎も透の頭を軽く優しくたたいてから去っていこうとしたとき、待たせておいたヒオウギが現れる。  すぐ戻ると言っていたのになかなか戻らなかったので、様子を見に来たのだろう。
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