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「君は・・、もしかして『檜扇』か?」
「ん?そうだけど」
拓郎はヒオウギを見て、すぐに『檜扇』の名をだし、そして透のほうを向き直って、
「もしかして、透君って、『東山透』なの?」
思い返せば透は拓郎に自分の名前を言ったことはなかった。
ちこが拓郎に自分を『透』とだけしか紹介していなかったことを思い出す。
「何で苗字を?それに、ヒオウギのことだって何で知っているんだ?」
「透君、お兄さんいるでしょ」
「・・・」
透は肯定せずに黙った。
でも拓郎はそれを肯定と受け取って、
「君のお兄さんの仕事に今関わっていてね、お兄さんが一度、アフグを見て『檜扇』のことを話していたことがあったんだ」
兄とアフグの話になって、透の表情から拓郎が作り出した笑顔が消えていく。
鈴森神社は特別。
でも、その鈴森神社で透はアフグを傷つけた。
鈴森神社でさえも自分はやっぱり不運を呼ぶ。
拓郎は透の表情の変化を見て、
「お兄さんと仲良くしてる?」
「いいや、希薄な関係だよ」
拓郎の問いに言葉を返したのは、昨日からの一日しか透と兄を見ていないヒオウギだった。
しかし、ヒオウギの言葉に間違いはない。
「そうか」
拓郎はそれだけ言った。それだけしか言わず、最後に、
「まぁ、またいつでも神社においで」
と、言葉を残して鈴森神社のほうに帰っていく。
また鈴森神社に行く?
アフグを傷つけたのに。
今度はホウキを傷つけてしまうかもしれないのに。
もう鈴森神社には行けない。
そして、拓郎に、鈴森神社へと続く道に背を向けて、透はヒオウギとともに家へと歩き出した。
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